『その瞳は、何を映し出す…』

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『その瞳は、何を映し出す…』

JR八神山郷本線…現在時刻。 (0時45分) 最終桂木町行き、電車内。 「え~本日は、ポイント故障の為にダイヤルが大幅に乱れました事を誠にお詫び申し上げます、 この電車は…」 無機質で機械的な男性のアナウンスは、 静まり返った車内に孤独に流れ渡る。 窓から見える夜の街並みに過ぎ去る街明かりは 綺麗なイルミネーションのような線上を描き、 それを空虚な眼差しでジッと眺めた。 heartBankの最新機種…IPのスマートフォン、 タッチパネルの携帯電話を操作しながら、 IPに接続したイヤホンを両耳に付けて、 ダウンロードした音楽を聴き、 黒っぽい青系の学ランに大きな紫色のスポーツバックを背負う一人の少年。 名前は「草薙 仙」 この春から、八神市の桂木町に住む叔父の家でお世話になる事と桂木町唯一の新設校である、私立月詠弥学園に転校する事になった。 「随分遅くなったな…叔父さん、多分怒ってるな…」 携帯の時刻を見ながら、音楽を選曲して1人心の中で呟いた。 叔父とは、僕の母方の弟。 結婚はしているが…現在は別居中と聞いている。 そんな叔父は桂木町警察署の刑事である。 階級は確か…警部補、だったけ? 「…まぁ~いいか」 草薙は揺れる電車のドア口を向き、窓に映る自分と話すように、久しぶりに会う叔父の事を思い出しながら言った。 相変わらず車内は静かで電車の走行音だけが静かに響く。 自分を含めた乗客は数人で、どこから乗ってどこまで乗るのかも分からない、豪快に座席に寝そべって居眠りをする酔っ払いの中年サラリーマンに携帯を弄りながら話す、二十代位のカップル。 作業服を着た若い男の人。 携帯の操作に夢中な女性。 草薙はドア越しに見える、過ぎ去る夜の街並みを…ぼんやりと眺めた。
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