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実に醜悪、実に醜汚<キモチワルイ>。
「GAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!」
それは生まれ出でたことへの喜びの咆哮か。
一際大きく叫びを上げたヤツは、その赤黒く濁った目を私に向けた。
「ひっ……」
殺気、とでもいうのだろうか。
化け物の咆哮にへたり込んでいた私はその視線を受けまるで金縛りのように固まってしまった。
通常無意識的に行っている呼吸さえ満足にできない。
客観的に今の私を見れば過呼吸のように息を荒げ、とても人様に見せられるような顔をしていなかったろう。
そんな、私が動けないでいるのにも関わらず化け物は一歩一歩私に近付いてくる。
3メートルほどの巨体が近付く。
ゆっくりとしたその動きはまるで死へと誘う死神のよう。
刻々と死が間近に迫る。
絶望、恐怖――そんな感情はとうに消え、諦観の念だけが胸中に残った。
ゴルゴタの丘で死を待つイエスもこんな気持ちだったのだろうか。
イエスは生き返るが私は生き返れないのだから、どの道私の人生はここで終わりらしい。
ゲームオーバー。コンティニューなし。
セーブ・ロード機能の付いたゲームならどれだけよかったか。
「GAAAAAAA………」
化け物の息遣いが聞こえてくる。
目を閉じている私には分からないが気配でもう目の前にヤツがいるのは分かる。
(ごめんなさい、お母さん。お父さん……)
―――そして、死神の鎌は……落とされた。
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