16.動揺

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「いや、ちょっとね……。友達と……喧嘩しちゃって………」 『そう……。それで悩んでいるのね?』 穏やかな声が電話の奥で聞こえた。 「そう……かな」 『まぁ……詳しくは聞かないけれど、耿介、今立ち止まっているんじゃないかしら?現状維持になってしまってる。一番すべき事が何か本当は分かっているのに……』 確かに、今オレは立ち止まっている。だが 「一番すべき事………?」 そんなの分からない。思考の限りは尽くしたと思っているし、今は雅の気がかりな事を待つしか……。 『あら……?気づいてなかったのかしら?耿介。それは人に相談したり、自分が眠れなくなるほど考えるより一番大切な事よ』 「……どういう事?母さん」 理解出来ない。母さんの言うことが。 『その喧嘩した相手と向き合うこと。それが大事なのよ。今耿介は自分の領域で解決しようとしてしまっている。それではもし友達が何か見つけてくれても何も進まない』 「…………」 『耿介。お父さんとお母さんにも同じ事が有ったわ。その時は耿介のように私たちは悩んだわ。そして同じような状況だった。でも友達やライバルから同じ事を言われて二人ともその状況から脱却した。そんな両親を持つあなたにこの状況を脱却出来ないわけがないじゃない』 暖かくも力強い声がオレの耳に届く。 「そっか……」 やっと踏み出せる道が見えたかもしれない。この耐え難い状況を覆す道が。 『それじゃあ、頑張りなさい耿介。あなたなら出来るから』 「うん。ありがとう母さん」 すると向こうの受話器から何か声がした。 『母さん!?俺にも電話代わってくれよ。え?もう切る?やめてぇぇ!!俺にも息子とマイエンジェルに話す機会をぉぉぉぉ!!!《ドゴッ!!》………ユニバァァァ~~~~~スッ!!』 そう何か不思議な断末魔を残して電話は切れた。
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