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「なんだ。そうかよ。ならいいんだ」
オレが握りしめたシャーペンに一度視線を移し、それから再びこちらを向いて笑いながら言った。
「………祥吾?」
オレは意味がわからず祥吾の名前を呼ぶ。
「ん……その…なんだ。ぐじぐじしてるんだったら、渇でも入れて今日朱音ちゃんの家に連れて行こうとだな……」
そうジェスチャーを加えながら苦笑する祥吾を見て、オレは口元に笑みを浮かべる。
「ありがとよ。でもその役割は違う人にやってもらったよ」
それも、とても優しい声で癒やされるように諭された。
「なんだ。俺の他にもそういう奴がいたかぁ……。まぁ、それはそうと、どうするんだよ。話するたってあっちが会わせてくれなきゃ……」
そう心配そうに言う祥吾にオレは親指を静かに上げる。
「無理やりまかり通るまで」
すると祥吾は呆れた顔になり
「まじかよ……。お前そんな単騎特攻タイプだっけか………」
と一言。
「………ん、まぁ流石に冗談だが」
「だよなぁ!!!」
あっけらかんと告げると、机に出された右腕をつねりながら言う祥吾。
「多分、朱音の家にいるメイドさんが通してくれると思う」
朱音の部屋までは分からないがとりあえず家の中までは入れてくれるだろう。
部屋に入る事からはオレが頑張るしかない。
「ふむ」
祥吾が納得したように唸る。まぁやり方と言ってもこれぐらいしか正統派なものはないだろう。
「耿介さん」
祥吾とそんな話をしていると香が近寄って来ていた。
いつの間にか朝のSHが終わっており、辺りはざわついていた。
「どうした?香?」
顔を見ると不安げな表情をしていた。
「朱音ちゃんどうしたんでしょう?」
「さぁ……な」
言ってしまえば、余計な心配を掛けてしまいそうな気がする。
「………そうですか。なんか昨日電話がかかってきたんですけど、すぐに切れて。かけ直しても出ないんですよね……」
「そっか……」
不安げな表情を崩さない香の顔を見て胸が苦しくなる。
「香ちゃん!!!」
オレが手に少し力を入れると、祥吾が急に香の名前を呼んだ。
「飲み物。一緒に買いに行かないかな?」
「えっ……は、はい。いいですけど……」
戸惑った表情を見せた香だが承諾して、祥吾と一緒に教室を出て行った。
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