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少女は二度三度、首を横に振った。悪い『気』はしなかった。勘の鋭い霊夢である、己を害するものが潜むなら、感じ取る。社は魔を祓う場。何らかのカミが坐すか――或は、妖が居るか。もし、後者だとしてもあの半白沢に似た雰囲気がある。此処は安全だ。彼女のように、友好的な『もの』が居ると、思われた。 聳える鳥居に、礼をする。『欠かしてはいけない』、と教わった。 「神の在座――鳥居に伊禮ば此身より日月の宮と安らげくす」 不意に、口をついて出たものを、続けてみた。鳥居祓。鳥居を潜る際に奏する祝詞だと…これも教わった。 それを潜り、月の明かりを頼りに、先を進んだ。静寂の中を、一人きりで。 トンネルのように長々と続く鳥居――大人の背丈より頭ひとつ、ふたつ分くらい大きい――の先には、絢爛豪華な彫り物のなされた拝殿と、その先に同じく荘厳な、何らかのカミのおわす本殿が月の光に照らされていた。挟むかのように、狐を模した石像が、樹齢何千年とも見える、注連縄の張られた大木の前にちょこん、と座っていた。御先使が狐ということは、此処は稲荷のお宮だろうか。 澄んだ声音を放つ、鈴を鳴らした。二礼二拍手一礼。作法通りにカミを詣でる。 顔を上げると、埃の積もった、曇った鏡に、自分の姿がちらりと一瞬見えたような気がした。 鈴――……
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