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「……言い伝え、ですか。」
確かに白い鴉はこの街に語り継がれてる言い伝えって事は知ってる。
だから、この紙に書いてある事もどうせ知れている。
俺が呆れていると解ったのか、獣医さんは口を開いた。
「君はこの街の言い伝えをどこまで知っているかな?」
「…死刑囚が鴉になって今を生きる人達を守るってやつですよね?」
「まぁ読んでみてよ。」
仕方なく読む事にした。
○○町言い伝え
死刑囚が鴉になり、今を生きていく者を守る。
その鴉達の中の長は兎のように白く、兎のように赤い眼をしている。
長が死した場合、鴉達の中で密会が行われる。
次期長を決めるために。
長に選ばれた鴉は、相棒のような存在の鴉に片眼に傷をつけられる。
それで、就任確定。
「これって…。」
正直驚いた。
だって…。
「そうなんだよ。不思議だろう?」
なんか、余りの驚きで声が出なかったから無言で頷いた。
獣医さんが優しく微笑む。
「この鴉と同じだろう? 目を怪我してる。しかも白いしね。」
それだけじゃない。
それだけじゃないんだ。
「…この鴉、さっきもう一匹の鴉と乱闘してたんです。しかも、その鴉に目を傷つけられたんです。心配だったんで駆け寄ったら羽毛がどんどん白くなっていったんです。目は開いた時、既に赤でした。」
獣医さんは驚いていた。
「それ、本当かい?」
「はい。」
獣医さんは目が輝いていた。
そりゃそうだよな。
獣医だもん。
動物に興味があって獣医って職業につくんだからなぁ。
当たり前か。
「そうだっのか。そうか! じゃあそのもう一匹の鴉はこの鴉の相棒だったんだろう。ぴったり当てはまってる。それならこの言い伝えには続きがあるかもしれないな。」
「…そうですね。」
そうだよな。
ここまで的確な言い伝えがあるなら、まだ続きがあるはずだ。
「なぁなぁ君、この鴉はもう大丈夫だから放す。だけど、僕はこの鴉の事をもっと詳しく知りたいんだ。しかし僕は仕事で忙しい。君も学校で忙しいと思うけど、僕よりは自由だ。だから僕の代わりにこの鴉を観察していてくれないかい?」
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