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「兄さまっ!」
開いた扉の中に、押し込まれる形となっている少女が声をあげた。
「静かに。」
口元に人差し指を立て、青年は告げる。
「シャラ、いいかい?
ここは外に繋がっている脱出路になっている。」
そっと微笑んで、名残惜しいとでも言うように少女の長い髪に優しく指を通す。
「僕がこの扉を閉めたら、シャラは真っ直ぐこの道を走っていくんだよ?
入り口は、隣国の近くの湖に出るようになっているからね。」
「――どこだ?…たしか、こっちに行ったはずなんだが。」
「――この部屋じゃないのか?」
にっこりと微笑んで、青年がそういい終わると同時に、外から野太い声が聞こえてきた。
その声に驚き、少女は青年の腕をクイクイとせっかちに引きながら言った。
「兄さまも、早く!!
――この中へ!!!」
必死に小さい体を、なお小さくしながら自分の腕をとり奥へと進もうとする少女を、青年は微笑ましく見る。
そして、青年はそこから動こうとはしなかった。
不思議に思った少女が目線をあげると、寂しそうに笑う青年と瞳がぶつかった。
「シャラ…すまない。
僕は、君と一緒には行けない。」
そう言って、子供をあやすように青年は少女の頭をぽんぽんと撫でた。
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