Episode 0

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  「兄さまっ!」 開いた扉の中に、押し込まれる形となっている少女が声をあげた。 「静かに。」 口元に人差し指を立て、青年は告げる。 「シャラ、いいかい? ここは外に繋がっている脱出路になっている。」 そっと微笑んで、名残惜しいとでも言うように少女の長い髪に優しく指を通す。 「僕がこの扉を閉めたら、シャラは真っ直ぐこの道を走っていくんだよ? 入り口は、隣国の近くの湖に出るようになっているからね。」 「――どこだ?…たしか、こっちに行ったはずなんだが。」 「――この部屋じゃないのか?」 にっこりと微笑んで、青年がそういい終わると同時に、外から野太い声が聞こえてきた。 その声に驚き、少女は青年の腕をクイクイとせっかちに引きながら言った。 「兄さまも、早く!! ――この中へ!!!」 必死に小さい体を、なお小さくしながら自分の腕をとり奥へと進もうとする少女を、青年は微笑ましく見る。 そして、青年はそこから動こうとはしなかった。 不思議に思った少女が目線をあげると、寂しそうに笑う青年と瞳がぶつかった。 「シャラ…すまない。 僕は、君と一緒には行けない。」 そう言って、子供をあやすように青年は少女の頭をぽんぽんと撫でた。    
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