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「………何だ?」
立ち止まって振り返った俺に声を掛けてくる。なんでもないと頭を振っても、幼い頃に闇雲に空に手を突き出した時のような、わけもない焦燥感が胸に流れ込んでくる。手を伸ばせば届くのか? そこに星はあるのだろうかと、果ての無い疑問のように、俺が出会った誰よりも掴みどころが無い。
「悪ぃな、なんでもねえ。もし一人で寝てぇなら、そこの出口から南回りに水場があるからオススメ」
「これから見回りに出る俺にそれを言うか、お前は」
「バレやしねぇよ一人くらいサボっても。じゃあな」
近くにいると深淵を覗く羽目になりそうだ。
ふらふらしそうな足を叱咤して砦内に入ると、背中に「ありがとな」、と声が掛かった。間違いなく寝る、よな、アイツ。要領よく手抜くタイプっぽい。
それからしばらくして、国境線も少し諍いがあったが、結局カティスと俺はその場ではもう会う事はなかった。そうさ、あれは何年前か覚えちゃいねえが、何年か前の俺と同い年くらいだぜ、今のカティスもあの時のカティスも。俺だけ良い男に育ったわけだ。ざまあみろ。
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