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「そう! その声。それよ!」
いずみは興奮したように叫んだ。
「うーん。すごい偶然だなあ」
誠司は、煙草を揉み消した。
いずみは両手を口に添えたまま誠司をまじまじと見詰めている。
「どうして……」
いずみは何かを言おうとして絶句した。やがて僅かな沈黙の後、彼女の両目から涙が零れた。そして、それは留まることなく滂沱の涙となって、いずみの両目から溢れ出した。
言葉で表現しようのない心の想いは涙となる。
それを見て驚いた誠司は手を伸ばし、いずみの手を握った。
「こんなことがあるなんて……信じられないような巡り逢いだね」
誠司がそう言うと、いずみは深く、何度も頷きながら更に泣いた。
そうして、その夜、誠司は、いずみを抱いた。
だが、いずみが流した涙の、本当の理由を誠司は、まだ知らない。
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