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雪深い越後に、『上杉謙信』と言う男が居た。
乱れに乱れた越後の国を、毘沙門天の化身を名乗り『正義』の名の下に平定した若き武士(もののふ)である。
幼少から僧籍に入り、高僧となるべく修行していたが、本来ならば越後を平定しなければならないはずの兄『晴景』が病死してしまった為に、僧籍を捨てて上杉の頭領となるべく、俗世に戻ってきたのだ。
戻るや否や、烈火の如き勢いで領内の不穏分子を一掃。
敵対した『長尾政景』や『本庄繁長』らを味方に加えつつ、古参の家老を筆頭に『直江景綱』、『柿崎晴家』、『安田長秀』、『平子孫三郎』らと連携を取り、国内の平安を磐石のものとした。
ものとは、したが…。
問題は次から次へと湧いて来るもの。
一国を平定した若き国主のもとに、近隣の土豪、士族、豪商たちから連日の様に見合い写真が届く様になった。
しかし、謙信は生涯を正義の為に捧げ、あろうことか毘沙門天の化身として『不犯』の誓いを立ててしまっていた。
帰俗したのに、勿体無い話である。
さらに、無下に断っては無礼と、一件一件自ら断って回ったものだから、さあ大変!
謙信が男離れ処か、人間離れした美貌の持ち主だったものだから、娘たちの方が本気になってしまった。
今や宗教。
せっかく闘いから解放されたのに、謙信と家臣団は連日、ファン倶楽部の握手会やら講演会やらに忙殺される日々。
流石の毘沙門天の化身も、我慢の限界に来ていた。
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