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国1つ挟んだ深い森の中、銀色に輝く髪をなびかせて久しぶりに素に戻った謙信は、ここぞとばかり走り回っていた(時速27キロ)。
いくら一度は出家し、不犯を誓ったとしても、まだ年若い『女』。
年がら年中男の格好をしていては、流石に気が滅入ると言うもの。
城内では兼続と甥の景勝しか知らない事実だが、謙信は歴とした女性。
しかも、本来は穏やかな性格なので、戦が大嫌い。
早く終わらせたいが為のガムシャラ作戦が、毎回偶然にも的中しているだけなのだ。
凛々しく清廉で、勇敢な『上杉謙信』と言う男は、虚像でしかない。
更に言えば、そんな男、謙信の趣味でもなかった。
男はワイルドで、ダンディな方が良い!
そんな男、合った事もないが。
「戦争なんて、早くなくしてくださ~い!」
見えない毘沙門天に願う。
女の声で、女の姿で、ありのままの自分で。
いつか、『自分に戻れますように』と。
ひとしきり森を駆け回り、気分転換になったのか、謙信は見付けた泉におもむろに飛び込んだ。
元々軽装で来ていたので、泉の中で服を脱ぎ捨て、深く潜り込む。
水中から見える、太陽の光。
空、雲、風、木々。
しっかり瞳に焼き付けて、水中から顔を上げた。
銀色の髪が水面に広がり、キラキラと光を反射する。
「………帰ったぞ」
「はい」
突然響いた太く逞しい声に、咄嗟に返事をしてしまった。
瞳を向けた先。
そこには彫像の様な裸体を曝す、ちょいワルおやじが居た。
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