第三変『黒家臣』

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「マイロード、朝食が出来上がりました。 お召し上がり下さい」 黒い洋装の男は、ふわふわのベッドで眠りにつく小さな主人の耳許へ、静かに語りかけた。 その姿、声、共に優雅にして流麗。 男なら100人中1752人がその容姿に嫉妬し(当社比)、女なら甘く囁かれた瞬間に懐妊してしまうだろう。 しかし、この主人はどちらでも無かった。 「朝くらい普通に起こせ!阿呆!!」 容赦無い目潰し。 「ふもっふ!」 両目とも見事にクリーンヒットし、男は闇色の瞳から流血かまし、ベッドとは不釣り合いな畳の上へと悶取り打って転がった。 恐らく、痛い、等と言うレベルの痛みでは無いだろう。 眼から流血してるし。 「起きろ小十郎。 朝食の支度は、出来てるんだろう?」 従者も従者なら、主人も主人。 従者の目ン玉を潰した主人も、目の覚める様な美少年。 ナチュラルボブとでも言うのだろうか?自然な感じで短く切り揃えられた、深い緑色の髪。蒼よりも更に濃い色のダイヤの様な瞳。薄く桜の様な色をした唇。 それらのパーツが飾り立てる小さく整った顔は、少女とも少年ともつかない危うさを醸し出していた。 長々と説明したが、要は規格外の美少年なのである。 名を『伊達政宗』。 幼いながらも大小の勢力が犇めく、奥州をまとめ上げた『北の覇王』。 現在、13歳。 10の時に消息不明となり、心身ともに衰弱しきった状態で小十郎に発見されたのは、その3ヵ月後。 この間に父は殺害され、後を継いだ弟と、その後見である母は家臣1人満足に従わせる事が出来ない暗愚。 これに対して体力と精神を急速に回復させた政宗は、小十郎と共に一夜にして母たちの勢力を駆逐すると、翌年には、破竹の勢いで奥州を平定してしまった。 当時、若干11歳。 以降、敢えて領土の拡大はせずに、国力を高める事に力を注いだ。 国力は強化され、民の暮らしは安定した。 安定したからこそ、少しは味わえる様になった『普通の暮らし』。 このセクハラ家臣とのやり取りを、政宗は内心、快く思っていた。 ・
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