第三変『黒家臣』

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「僕の命令が聞けないのか? 立て無能」 「イエス、マイロード」 素早い。そして、何と言う回復の早さか。 血を拭き取りながら立ち上がった男の目玉は、傷一つ付いていない、深い闇色のままだった。 「今日のスケジュールを」 「御意。 本日、真田幸村様と朝食の後、御同席のもと豊臣秀吉様と会談。 会談終了後に、当家にて昼食を取って頂き、午後からは城下町観光となっております」 「おまえ…秀吉様を呼びつけたな?」 額に怒りマークを浮かべながら、憮然とした表情で従者を睨み付ける。 しかし、当の小十郎は何処吹く風。 「呼びつけたなどと、滅相も御座いません。 私はただ、バナナを吊るしただけに御座います。 猿が、見えやすい場所に…」 口では笑っているが、目が笑っていない。 これが、この従者の本質か? これだからこそ、覇王の側近なのか。 従者の意を感じ取り、主人も微笑う。 凍てつく様な、満面の笑顔で。 「なるほどな…… 無能、今回は許してやろう。 結果を見せろよ?」 「御意」 深々と頭を垂れる従者の横で着替えを終え、『見えざる右目』に刀の鍔で造った眼帯を装着した政宗は、颯爽とした足取りで自室を出た。 後ろには従者『片倉小十郎』。 政宗が幼少の砌から仕える兄代わりであり、目標だったはずの侍。 消息不明だった政宗を連れ帰ったまでは良かったが、余程の激戦があったのか、はたまた主君を守れなかったショックからか、小十郎の性格は180度変わってしまっていた。 竹を割った様なさっぱりとした性格が、西洋貴族風の優男の様に。 それに伴って、服装の趣味が変わった。 袴から燕尾服に。 外見が同じで、中身は全くの別物に入れ替わった様な……。 だが、優秀である事とその忠誠心が変わらなかったので、誰もそれを深く追求しようとは思わなかった。 そして、政宗がたまに、哀しげな表情で小十郎の背中を見詰めている事も、誰も、知らない。 ・
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