第一変『まえだ家の家庭の事情』

2/6
前へ
/88ページ
次へ
小さな島国に大小様々な勢力が犇めき合う、群雄割拠の時代。 この時代に、何物にも縛られない自由な武士(もののふ)が居た。 「うおぁあああああッ!! 叔父御ッ!叔父御ぉおおッ! 無いッ! 無くなってるぅうううッ!」 朝から騒々しく、武家屋敷の一室から障子やら襖やらを弾き飛ばして、寝間着のまま廊下をダッシュする長身の美女が1人。 加速で巻き起こる風に乗って、長く流れる様な紅い髪が、鬣の如くひゅんひゅんと揺れる。 はだけ掛かった寝間着から覗くバディは、グラマラスピーチ! 長く美しい手足と相まって、まるでモデルだ。 均整の取れた顔。 何かに驚いて丸く見開いた瞳も恐らく、普段ならば切れ長の力強い瞳なのだろう。 うっすらかいた汗に濡れ、朝陽に光る健康的に焼けた肌も、彼女の美しさを際立たせていた。 「叔父御ッ! 起きろ馬鹿野郎!」 ボカァンッ!と襖を蹴り砕き、叔父御と呼んだ男が眠る部屋に、女性は飛び込んだ。 「起きろ!叔父御ッ! 起きて答えやがれ!!」 ガシッ!と襟首をひっ掴まえ未だ起きない男を、ガクガクと揺さぶる。 件の美女も長身だが、この男もデカイ。 そして、この女と並び立つ程の美男であった。 「おう、松か。 朝から激しいなコノヤロー」 「起きろ!馬鹿たれ! 松ちゃんじゃねぇよ! てめえの姪の慶次だ! 自分の嫁さんと姪っ子間違えんな!ロリコン不良亭主!」 「何が不良だ!ボケェエエッ!!」 「ぶはッ!!」 容赦無しの裏拳! 美女は襖をブチ破り、廊下を越え、向かいの部屋まで見事に吹き飛ばされた。 しかも、垂直に。 「ロリコンは正解だが! 俺は不良では無い! この前田利家! 天下の荒くれ者よ!」 「ッてぇ~…ロリコンを否定しろよ、叔父御」 乱れた寝間着を直しながら、前田家最終兵器彼女こと『前田慶次郎』は、はたと思い出した様に、また利家に詰め寄る。 「叔父御! オレの『ぷりん』を知らないかッ!?」 『ぷりん』の所在を知るための、今日の損害。 襖6枚。 障子2枚。 土壁1枚。 朝の触れ合いプライスレス。 合計1両2分。 何物にも縛られない武士は、『ぷりん』にガッツリと縛られていた…。 ・
/88ページ

最初のコメントを投稿しよう!

78人が本棚に入れています
本棚に追加