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小さな島国に大小様々な勢力が犇めき合う、群雄割拠の時代。
この時代に、何物にも縛られない自由な武士(もののふ)が居た。
「うおぁあああああッ!!
叔父御ッ!叔父御ぉおおッ!
無いッ!
無くなってるぅうううッ!」
朝から騒々しく、武家屋敷の一室から障子やら襖やらを弾き飛ばして、寝間着のまま廊下をダッシュする長身の美女が1人。
加速で巻き起こる風に乗って、長く流れる様な紅い髪が、鬣の如くひゅんひゅんと揺れる。
はだけ掛かった寝間着から覗くバディは、グラマラスピーチ!
長く美しい手足と相まって、まるでモデルだ。
均整の取れた顔。
何かに驚いて丸く見開いた瞳も恐らく、普段ならば切れ長の力強い瞳なのだろう。
うっすらかいた汗に濡れ、朝陽に光る健康的に焼けた肌も、彼女の美しさを際立たせていた。
「叔父御ッ!
起きろ馬鹿野郎!」
ボカァンッ!と襖を蹴り砕き、叔父御と呼んだ男が眠る部屋に、女性は飛び込んだ。
「起きろ!叔父御ッ!
起きて答えやがれ!!」
ガシッ!と襟首をひっ掴まえ未だ起きない男を、ガクガクと揺さぶる。
件の美女も長身だが、この男もデカイ。
そして、この女と並び立つ程の美男であった。
「おう、松か。
朝から激しいなコノヤロー」
「起きろ!馬鹿たれ!
松ちゃんじゃねぇよ!
てめえの姪の慶次だ!
自分の嫁さんと姪っ子間違えんな!ロリコン不良亭主!」
「何が不良だ!ボケェエエッ!!」
「ぶはッ!!」
容赦無しの裏拳!
美女は襖をブチ破り、廊下を越え、向かいの部屋まで見事に吹き飛ばされた。
しかも、垂直に。
「ロリコンは正解だが!
俺は不良では無い!
この前田利家!
天下の荒くれ者よ!」
「ッてぇ~…ロリコンを否定しろよ、叔父御」
乱れた寝間着を直しながら、前田家最終兵器彼女こと『前田慶次郎』は、はたと思い出した様に、また利家に詰め寄る。
「叔父御!
オレの『ぷりん』を知らないかッ!?」
『ぷりん』の所在を知るための、今日の損害。
襖6枚。
障子2枚。
土壁1枚。
朝の触れ合いプライスレス。
合計1両2分。
何物にも縛られない武士は、『ぷりん』にガッツリと縛られていた…。
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