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「プリン…プリン…プリン…
誰が持ってったんだよ、オレのプリン……」
昨日の夜までは、自室の冷蔵庫に有った。
気付けば無くなっていた。
では、犯人は誰か?
慶次の部屋に、慶次に気付かれずに侵入出来る人間が、果たして存在するだろうか?
この屋敷には居ない。
では、外から?
忍びの術すら体得している慶次に気付かれずに、と言うのは、やはり至難の業だ。
はっきり言って、もう検討がつかない。
「あ~あ……
喰い損ねたな、オレのプリン」
屋敷をうろうろする内に辿り着いたのは、慶次の友『松風』の居る幕舎。
『松風』とは、慶次の愛馬である。
並みの馬なら片足で砕く程の巨馬で、慶次の相棒になる以前は『魔の馬』として近隣の諸将たちから恐れられていた。
人には決してなつかないその馬を、慶次は文字通り、口説き落としたのである。
松風の正体は、馬に擬態した妖獣。
一月以上松風の塒に通いつめ、恋慕の情にも近い情熱で松風を口説き落としたのだ。
それ以来、何でも話合える友となっていた。
無論、家老『奥村助衛門』も無二の友ではあるのだが。
「松風…プリン…なんて知るワケないか」
『知ってるぞ』
いわゆるテレパシーと言うやつだ。
任意の相手と音声無しで意志疎通出来る、便利能力。
松風は、これを使って慶次と会話していた。
「本当か?!
流石だな!松風!
で?プリンは今何処だ?!」
『胃の辺りだ』
胃?
「あの…松風?
喰った?」
『明け方、おまえがな』
記憶に無い。
味も何も、全く覚えてない。
しかし、松風は友だ。
慶次に対して嘘をついた事など、一度たりとも無い。
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