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その手にはコーヒーショップの袋。
大きさからして、コーヒーだけではなさそうだ。
リビングに置かれたテーブルの前、床に胡坐をかいた一葉の前に修がコーヒーとサンドウィッチを置く。
「何?」
「ん?朝ごはん。」
当然のことのように返事をした修に、一葉が少し眉を歪めて見せた。
「んなこと聞いてねぇし。なんで朝から、こんなもん持って家に来たんだよ。」
修はそんな様子に臆することなく、自分用のコーヒーとサンドウィッチを袋から出して一葉の真正面に腰を落ち着かせた。
「どうせ寝てないんでしょ?心配してきたんだよ。」
その言葉に一葉は返事をせずに、コーヒーに口をつける。
「眠れない人間にコーヒー買ってくるのどうかと思うよ。」
修はそんな一葉の言葉に、思わず苦笑いを見せた。
修への文句を言い終わると、一葉はあまり言葉を発っさなくなった。
それに対して、修がどうでもいい話を一生懸命にする。
九割、一人で話している。
一葉は「うん。」「へぇー。」「そう。」だけで、残りの一割を埋めている。
修は一葉の幼馴染だった。
家が道路を挟んで斜め向かいにあったから、物心ついた頃から二人はいつも一緒だった。
同じ保育園、同じ小学校、同じ中学校、同じ高校、同じ大学。
とにかく二人は仲が良くて、互いの両親は、このまま二人は結婚するものだと思っているくらいだった。
しかし実際には、当人たちはそんな関係ではない。
互いを恋愛対象としてみることはなかったのだ。
一葉はそれなりの容姿に恵まれていたし、修は誰にでも優しかったので、どちらも恋人に不自由するということがなかった。
そもそも、ずっと一緒にいたことで互いを異性として意識することがなかったのだ。
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