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「どうしてそんなことすんの?って言ったよ。でも、好きだからって、なんで怒るのって逆ギレされた。」
修の返事に、一葉は信じられないとでも言いたげな目を向ける。
「なんで、そんな思いしてまで付き合ってんの?」
その言葉に修が「何言ってるの?」とでも言いたげな表情を作って答えた。
「好きだから。」
一葉は鼻でため息をつくと、また視線を修からそらした。
そんなハッキリ答えられるなら、悩むことなんてないじゃないか。
好きだからと言われたら、それ以上は誰にも何も言えることはない。
だが、修の愚痴は尽きることがないようで、何事かまだブツブツ続ける。
一葉は相槌も打たず、愚痴る修を黙って見ていた。
修がそんな一葉に気づいたのは、十三分と二十九秒後だった。
コーヒーを飲んでいた一葉は、意地悪そうに口の端を吊り上げて修の目を見ていた。
「相手の価値観も考えも理解しないで、自分の思いばっか押し付ける奴といたって、幸せになんかなんないんじゃない?押し付けるほうもイライラして、押し付けられるほうも嫌な思いしてさ。何が愛よ?」
皮肉だった。
しかし、それは一葉の感じていた正直な思いでもあった。
そんな関係のどこに愛があるのか、一葉には全くわからない。
修は何も言えなくなり黙ってしまった。
一葉の言葉は、間違っていないように思われた。
ただ、それが正しいと言いたくないし、全く正しいとも思えないでいた。
修の頭の中は、愚かで純粋な想いを迷走した。
何も言わずに動きを止めた修に、一葉は口の端を更に上げた。
「凹んだの?」
修はひとつ頷いた。
一葉が鼻で笑って、座ったままの体勢で伸びをした。
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