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それから数十分。
修は頭を下げたまま動こうとしないでいた。
さすがの一葉も、この状況にはいい加減疲れてしまった。
仕事もしたい。
「なに考えてんの?」
一葉の声は、どんよりと部屋の中に広がる。
修は何も言わずに、首を横に振った。
その様子に、一葉は内心イラッとした。
それは睡眠不足のせいの短気であった。
睡眠不足の体は、一葉の気づかないところで確実にそれらしい異常を起こしていた。
だが、一葉の理性は無意味なほどの強さをみせ、傍目には彼女がイラついているなんてことはわからない。
長い付き合いの修にも、一葉のイラつきは伝わらなかった。
「好きなんだろ?それでも一緒にいたいんだろ?それでいいんじゃないの?何、私に言われたことで考え込む必要あんの?」
早口で、穏やかな物言いとは言えない言葉。
しかし、一葉の声は落ち込んだ修をフォローするようにも聞こえた。
少なくとも、修には真っ直ぐと言葉のいい意味だけが届いていた。
修は頭を上げて一葉を見た。
目が合うと、呆れたように一葉が微笑んでみせる。
その笑顔に修も笑顔で返した。
怒ってみせていても、いつだって一葉は自分を理解してくれている。
修はそう信じていた。
残り僅かなコーヒーを飲んで、修は「そうだよね。」と呟いた。
考えるのを一時休止することにしたようだ。
どうして、こんな面倒くさいことを繰り返すんだろう。
恋愛なんて・・・。
一葉はそんなことを思いながら、やはり残り僅かになったコーヒーを飲んで修を眺めた。
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