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他に客はいない。
開店直後のバーで、一葉は一人グラスの中の氷を揺らしていた。
店内には一葉と可愛い顔をした男性店員が一人。
一葉はカウンターに座り、ただグラスの中の液体を眺めている。
その目の前に立っている男性店員は、そんな一葉に微笑むと「もうそろそろ来ると思いますよ。」と声をかけて、煙草に火をつけた。
青い照明で照らされたカウンターの中、煙草の煙がユラユラと漂う。
一葉はグラスから目を離すと店員を見た。
間接照明のみの暗い店内だからハッキリしないが、煙草を吸っている店員は随分と若く見える。
ジャニーズ系で、爽やかな雰囲気。若さは別としても、彼のその爽やかさに煙草は似合わないように思えた。
「ねぇ、煙草似合わないよ。」
「よく言われます。」
会話は短く終わった。
一葉は煙草の煙に目を移した。
「おはようございま~す。」
ドアが開いて入ってきたのは、白いシャツにベージュの七分丈の短パン。
それをサスペンダーで小粋に着た男だった。
可愛い顔をした店員が「おはようございます。」と返事をする。
一葉は何も言わず、入ってきた男を見ていた。
その視線に気づいたのか、カウンターに座る一葉を見た男。
視線がぶつかると、男がため息をついた。
「どうしてアンタいるのよ?」
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