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KUONは一葉と目を合わせることなく、慣れた手つきでボトルを元の位置に片付けながら返事をした。
「誰によ?」
「そのボトルのキープ主。」
「全然。っていうか、僕の為にキープしてくれてんでしょ?」
「まぁね。」
イニシャルS・Tは一葉のペンネームのようだ。
そんな会話を聞きながら、若い店員が楽しそうに笑っていた。
それに気づいたKUONが目で合図した。すると、若い店員がカウンター席の一番端に座る。
客が一葉だけなので、まだ休んでいろということらしい。
一葉はKUONも座ればいいのにと言ったが、KUONはこっちの方が落ち着くとカウンターから出ない。
「そういえば、新しいの本屋に並んでたよ。なんだっけ?なんか長いタイトルの・・・ほら!ミルクティーがどうのとかいう・・・」
「ミルクティーの冷める頃。」
「あぁ、それ。並んでたよ。」
つい何日か前、一葉の最新作が発売になったばかりだった。
さも、そんな話には興味がないというように一葉はジュースを飲んだ。
最新作と言っても、一葉が作品を書き上げてからだいぶ経っているのだ。
すでに一葉は別な作品を書き始めているから、発売された作品に対して何の感想もなかった。
強いて言えば、無事に発売されて良かった。
それくらいのものだった。
「新しいのどんな話なの?」
「読めば分かるよ。」
「ミルクなんちゃらの方じゃなくて!あれはアンタから貰ったから読んだわよ。糞つまんない話だった!」
KUONが口を尖らせて言う。
一葉はそれに一つ頷いて、静かに笑った。
こういう会話は日常茶飯事なのだ。
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