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「え?もしかして戸次先生じゃないです?」
グラスの中を覗いていた一葉は、突然呼ばれたことに驚いた。
男が近づいてきたので、一葉は笑顔を作ってそちらを見る。
彼は一葉のファンなのだという。
握手を求められた一葉は快くその手を握った。
「あんた、この人のこと知ってんの?」
「ファンなの!知り合いだったなら教えてよ~。」
男は一葉の隣に座りながら、KUONとそんな会話を交わした。
男の名は戸田といった。
ドラァグクイーンを生業としていて、その筋では割と有名なほうだった。
小柄で華奢な体つきで、なかなかのイケメン。
女装したなら女性よりも綺麗になるだろう。
なんだか小洒落たカクテルを受け取った戸田が乾杯しようと言うので、一葉とKUONは飲みかけのグラスを手に乾杯をした。
一口飲んで息をつくと、どうして女である一葉がここにいるのかと戸田が尋ねた。
一葉は説明するのが面倒らしく笑ってKUONを見た。
すると、KUONがペラペラと彼女がいる理由を淀みなく説明するのだった。
「そういうわけで、なんでか知らないけど一葉はここの常連になってるってわけ。」
KUONが話し終わると、戸田が楽しそうに笑いながら一葉を見た。
「戸次沙織って本名じゃないんですね。」
その言葉に、一葉が少し顔を引きつらせた。
「こいつ、本名は『芥川一葉』っていうの。凄い名前でしょ?」
KUONが一葉をからかう様に言った。
一葉は自分の本名が嫌いなのだ。
戸田はそんなことには気づかずに、「いい名前じゃない!」とKUONと盛り上がる。
親の悪ふざけとしか思えない。
『芥川』っていうだけで大作家の名前をすぐに連想されるのに、『一葉(いちよう)』という名前をつけるなんて・・・。
あからさまに有名女流作家から取った名前。
悪意以外の何物でもないと、物心付いてからずっと一葉は思っているのだった。
自分の名前で盛り上がる二人を完全に無視して、一葉が三杯目のジュースを要求した。
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