第1章

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ロゼヲモンドは客の出入りが激しい。 一晩に何組もの客が訪れ、何事か語り合っては酒を呑む。 時には雇われママのKUONに話を聞いてほしいとカウンターに座り、何時間もKUONに説教されている者もいる。 出会いを求めて訪れる者も多く、初対面でありながらもネオン街へと消えていくなんてことも少なくない。 それが全て男達によって演じられる世界なのだから、初めてそこに身を置いた者は全く不思議な感覚に陥るのだった。 深夜一時を過ぎた頃。 カウンターの端で、初老の紳士が若い店員の手を握って甘い言葉を囁いていた。 それを横目で見た一葉は、店員の可愛らしい苦笑いに同情しながら、薄くなったジュースを飲んだ。 さっきまで一緒に飲んでいた戸田は酔い潰れて眠っている。 一葉はしばらくその寝顔を観察したが、それにもすぐ飽きたのか回転いすをグルリと回し、体ごと真後ろを向いた。 ボックス席には二組の客。 一組はいずれも派手な女装をした三人組だ。 どうやら近くのショーパブの店員らしい。 何か店で嫌なことでもあったのか、顔をしかめて話し込んでいる。 その隣のテーブルを一つあけて、もう一組。 こちらも三人で来ていた。うち二人は常連で、入店してきたときKUONと親しげに話していたが、もう一人は今夜がロゼヲモンドデビューらしい。 一目見た瞬間、KUONがその新顔に釘付けになったのを、一葉は見逃してはいなかった。
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