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視線の先、なんだか知らないがベタベタと体を密着させて、見覚えのある男がその新顔に猛烈なアタックをしている。
アタックされている側の男もまんざらでもないらしい顔をしていた。
「今日は、KUONお持ち帰りね。あれ、かなりKUONのタイプだもんね。」
いつ目を覚ましたのか、戸田が腕枕をしてKUONを見て言った。
確かに、客はKUONのタイプそのものだった。
「私、帰るわ。」
一葉が席を立つ。
「え?帰っちゃうの?」
「KUON取られちゃったし。」
「そう・・・。じゃあ、今回は奢るよ。」
一葉はその申し出を断った。
奢られる理由が見当たらない。
しかし、KUONに振られた慰めだと言って聞かないので、最後はその言葉に甘えることにした。
「大先生に奢ったって自慢にもなるしね!」
戸田が嬉しそうに笑いながら言う。
それでもどこか気が引けて、次回会った時は自分が奢ると約束し一葉は店を出た。
ネオン街を抜けて、真っ直ぐ部屋に戻る一葉。
夜を行く人を眺めながら、いかにも面倒くさいといった感じで足を運んでいる。
飲み屋街であるこの街は、そのほとんどがバー・ロゼヲモンドのような系統の、一種、独特な世界に通じた店が集まるところだった。
この街に集まる人たちは、眠ることを忘れているようだ。
一葉はこの街を訪れる度、いつもそう感じた。
全ての人間が不眠症で、それはこの世界の常識なのだと錯覚を起こすほどであった。
この夜も、例外なく錯覚を起こしながら部屋に戻った一葉。
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