第1章

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シャワーを浴びると、ベッドには向かわずにパソコンの前に座った。 あくび一つ出ない。 一葉の体は一切の休息を拒絶しているようだった。 傍らにホットミルクを置いて、文字の羅列と向き合う。 毎日書き足していく文章を読み返し、誤字脱字を訂正する。 読み心地の悪い文章を書き直して、また読み返す。 何度も繰り返す作業でも、一向に眠気は訪れない。 そのうちに新しいページを書き進め、一葉は小説の世界に没頭していった。 今書き進めているのは、恐ろしいほどの純愛ものだった。 甘くて切ない、そんな言葉がピッタリの恋愛小説である。 早い段階で、マグカップのホットミルクは空になっていた。 だが、一葉は気づく様子を見せない。 完全に小説の中に入り込んでいるらしい。 椅子から立たないどころか、画面から目を離すことさえしないまま朝を迎えていた。 静まり返る部屋の中に、キーボードを打つ音だけが心地よく響いている。 そんな世俗から切り離されたような空間に、現実的な音が無機質に鳴ったのは、朝の九時を三十分も過ぎようとしている頃だった。 ピンポーン---。 突然の音に、一葉の体は小さく跳ねた。 それだけ集中していたのだ。 重い体を引きずるように玄関に向かう。 ドアの向こうの人間を確認すると、一葉は面倒くさそうに頭を掻いて鍵を開けた。 ガチャっと、あからさまに鍵の開く音がすると、外からドアが開けられる。 「おはよう!」 柔らかな笑顔を見せながら、修が部屋に上がってきた。
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