壱話:巡り合い

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「ただいま。」 草鞋を脱ぎ捨て、部屋へ向かおうと廊下を歩く。 「おぅ、やんちゃ坊主。やっと帰ってきたか。」 奥から現れたのは佐藤彦五郎、土方の義兄だ。盲目ながらも見えるかのようにしっかり歩いている。 近藤の家、多摩からは隣と言えど日野に着くまでには夜になってしまった。 「また近藤さんの所に行ってきたのか?」 「あぁ。」 「またお礼しに行かにゃならんな。…とその前に一つ朗報だ。」 ニヤリと笑う彦五郎に土方は不思議そうな顔をする。 「奉公先にいた女子、ご懐妊だそうだ。」 「あ"…。」 ずるずると後退りする。 その目の前に見えるのは義兄の凄まじい…いや、本物の般若が見えた。 「わ、わりぃとは思ってるぜ…?でも俺だって若いんだって!手ぇ出したくなる気持ちも分かるだろ!?」 明らかに開き直ったような態度。彦五郎の顔は一層凄みを増す。 さすが道場開いているだけはある。 「だからといってやって良い事と悪い事があるだろ!!そんなの区別できねぇ歳じゃねぇだろ!?赤ん坊かてめぇは!!」 まくしたてられるように怒鳴られ肩をすくめる。 「明日謝りに行けよ、絶対な。…それから当然だが、奉公先からもう来なくていいそうだ。」 そう言って踵を返し、奥の部屋に戻っていった。 今日は散々な日だ。 (あのクソガキには負けるし、かっちゃんには怒られるし、兄貴からは怒鳴られるし…。) 苛々を消すように頭をガシガシと掻きむしる。そして一つため息をついて部屋に戻った。 .
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