186人が本棚に入れています
本棚に追加
「その気になったらいつでも声を掛けてくれ。」
「はい、すみません…。」
「謝るなって、な?」
そう言って惣次郎の頭をガシガシと撫でる。
それに気持ちよさそうに目を細める惣次郎を見て、土方は小さく舌打ちした。
「せっかく武家に生まれてきたのにな。…どんなに願っても俺らは武士になれねぇのに。」
「止めないか、歳。…お前の気持ちは分からなくは無いんだが、言い過ぎじゃないか?」
近藤の家は百姓。
土方の家は商売もしていて、その上この辺一帯では名が知れた豪農だ。
しかしどんなに裕福な家に産まれても武士にはなれない。
なのに武家に産まれても刀を持ちたくない、そんな奴が目の前にいる。
それが土方にとって苛立たしくて我慢ならなかった。
「かっちゃんはどうしてもコイツの肩を持つんだな。」
不貞腐れたように道場から出ていく。
「歳!!」
「もういい、帰る!!」
そんな声が少し遠くから聞こえた。
.
最初のコメントを投稿しよう!