何年かして…

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何年かして…

結婚式のことは、ずっと胸に残っていた。 もう何年もたっているのに、あたしは由紀さんに面影の似た人を探しては付き合ってきた。 もちろん、外見しか見てないからまともな恋が出来るわけもない。 わかってた。 痛いくらいに。 でも頭では理解できていても、心が言うことをきかなかった。 求めても求めても、あたしの好きな由紀さんは自分を裏切って自分だけ幸せになったのだから。 どうしようもない、 そんなバカなことばかりしていたから、芸能界も追放された。 あたしには何も残らなかった。 地位も、名声も、お金も。 もう何でもよかった、あたしを必要とする人も、知っている人もいない。 死んでしまっても良かったんだ。 そう思いながら、橋の下を見る。 川の流れが速いって有名だったっけ。 ここに落ちればあたしは、ただの水死体になれるってわけだ。 何も思い残すことはないんだから、あっさりと飛び込んでしまおう。 終わったらちょっと新聞に載って、時間がたてば忘れられるもの。 穿いていたハイヒールを脱いで、橋に足を掛けた。 ちょうどそんなとき 「あの……すみません。」 声を掛けてきた、さえない男、ちょっと太っていて、肌の色が白い。 声を掛けられて、気分が萎えた。 「なんですか」 むすっとした表情で返事をすると、その男はソワソワとしてこちらを見つめてていた。 じっと睨むと困ったような表情でこちらを見つめ、口を開いた。 「浅見…明日香さんですよね?元アイドルグループの…ぼく何年もずっとファンだったんです。」 そう言われ、嬉しそうな眼差しを向けられた。 「はぁ…」 何だか飛び降りる気もなくして、とりあえず男の方をみる。 「もし忙しくなければ…お茶飲みませんか?ちょっとだけ話ししたいです。」 どうかしていた、その男の誘いに乗るなんて。 寂れた喫茶店に入る、相手の話なんてロクに耳に入ってなかった。 あたしの頭の中は、昔由紀さんと入った喫茶店を思い出し感傷に浸っていた。 「……て下さい!!」 男がいきなり叫んだ。 かなり興奮した様子で、顔は赤くなっていた。 上手く聞き取ってなくて、きょとんとしながらも私は思わず 「はい。」 と返事を返していた。 .
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