第一章 「果実荘の住人達」

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 「よう。実」 下畑と出会った。 「下畑。そっちはもう終わったの?」 「あと一つさ。お前もか?」 「あァ。お互い似たような感じだな」 「だな…ん?」 下畑がふと横に首を向けた。 僕も見てみると、何やら右往左往している女子がいた。 「何してるんだ?あの人?」 下畑の疑問に僕は首を捻った。 「僕、聞いてくるよ」 「あァ。…昔から変わってないな。困ってる人を放っておけないのは」 下畑が笑い声を交えながら言った。 僕は女子に近づき、声をかけた。 「あのォ…どうかしたんですか?」 「え!?あ………」 ビクッと肩が反応し、彼女はゆっくり振り向く。 彼女は丸眼鏡の奥の瞳をウルウルと光らせていた。 「大丈夫?もしかして、何か落としたの?」 「えッ…あの…」 彼女は何か言いたい様子だ。 目を俯かせ、右に左に泳がす。 時々首も一緒に動き、肩にかかっている三つ編みも揺れ動く。 そして 「ご…ごめんなさい!」 何故か謝られ、何故か逃げられた。 「あれ!ちょっと!?」 僕は呼び止めようとしたが、彼女は聞く耳を持ってくれなかった。 下畑は目だけ彼女を追っていた。 「どうしたんだ?」 近づいてくる僕に下畑が聞いてきた。 「分からない…。人見知り…なのかも」 複雑な顔で言う僕に、下畑は「ふゥん」と言っただけだった。
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