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帰り道は短く思えた。
久しぶりに昔の話しをしていたら、あっという間に果実荘に戻ってきた。
「今から、俺の家に来ないか?」
と誘われたが、僕は断った。
「まだ荷物の整理が終わってないし、色々やらなきゃいけない事があるんだよ」
「そうか…。やっぱり大変なんだな。管理人ってのは」
「そうでもないさ。慣れれば」
「そうだな。お爺さんの為に頑張れよ。じゃあな」
ゆっくり自転車を漕ぎ出す下畑。
僕は手を挙げ、別れを告げた。
「さて…と」
下畑の姿が見えなくなった所で僕は果実荘に身体を向けた。
「色々やらなきゃな…」
と意気込んだその時。
「アレ?実くん?」
この声は。今日聞いたばかりの声である。
「その声は…美樹さん!?」
僕は振り返ると、そこには驚いた顔の美樹さんがいた。
「なんで美樹さんがここに?」
「なんでって…私、ここに住んでて…」
「え?」
昨日は人気が無いと思っていたが、まさか美樹さんが住んでいたなんて。
「実くんは?実くんもここに?」
「あ…。え~、じつは…昨日からここの管理人になりました」
「管理人?」
僕は頭をかく。
「ハイ。前の管理人は僕のおじいちゃんで、色々ありまして僕が代わりになりました」
色々ありましてという所は今度教えよう。
冒頭にあった事を信じてくれるか分からないし。
「そうなんだ…。実くんのお爺さん、優しい人だったなァ…。元気なの?」
「あと20年は嫌でも生きるかと思いますよ」
「そう。なら良かった」
ニコッと笑い、美樹さんは僕に近いてきた。
そして目の前で立ち止まり、ぺこりと一礼した。
「今日から宜しくお願いします。管理人さん」
僕も一礼する。
「え!…と。こちらこそ宜しくお願いします」
顔をあげると美樹さんは優しく微笑みを浮かべていた。
「困った事があったら、先輩の私を頼ってもいいんだよ?」
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