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おじいちゃんは、買いたいものがあったから、隣町に来ていた。
無事に買い物を済ませ、帰ろうとしたその時だった。
心臓に痛みが走りだし、苦しくて、そりゃもう苦しくて。
倒れたそうだ。
「突然、痛うなってのォ…」
おじいちゃんが心臓部分を押さえ、苦しそうな演技をする。
「でも今の所、命に別状は無いみたいだしの。心配かけて悪かったなァ」
ハッハッハと愉快に笑い、母はため息をついた後に薄く笑った。
「おじいちゃん…やはりもう歳なんですよ。いつまでもあそこにいたら、治るものも治りませんよ」
「そうじゃのォ…色々な意味でなッ」
あそことは…
おじいちゃんが管理しているボロいアパートの事だろう。
小さい頃に一度行ってみたことがある。
名前は忘れたが、僕がおじいちゃんに向かって
「すごいボロボロだね!地震がきたらおじいちゃん潰れたりしそうだね!」
と無神経に言ったことは覚えている。
それくらいボロいわけだ。
「おじいちゃん…おばあちゃんの想いも大切ですが、今は自分の身体を心配して下さいな」
母がそっとおじいちゃんの手を握る。
「先に逝ったばあさんの為にと頑張ってきたが…の」
おじいちゃんは窓から外を見る。
と、突然、母が僕の方を見て
「何か言え!」
とばかりの眼力を飛ばしてくる。
僕は励ましの言葉を考えた。
「お…おじいちゃん。僕はおじいちゃんには長生きしてほしいよ。もう僕の前から誰もいなくなってほしくない…みたいなさ」
「実………」
おじいちゃんの目が潤んでいる。
「実………今の言葉…本当だな?」
「え?うん。当たり前じゃないか」
「よし!んじゃ実に管理任せるわ!!」
じいちゃんの目が
涙の輝きから
生き生きした輝きに変わった。
「は?」
僕は目を丸くする。
「そうね!おばあちゃんの為にも、おじいちゃんの為にも実が管理人やれば済むわよね!」
母はいい年こいて舌をだし、親指を立てていた。ウインク付き。
「ちょ…え!?」
「実!じいちゃんの為にも…ワシの為にもお願~い!」
「実~。母さん、じいちゃんの介護とかしなきゃだからさ…ね?」
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