《赤ワイン色の秘密》

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駿介はわざとらしく、咳払いを一つした。 「医者としてはあんまり高いヒールはお勧めしかねるんでね、まぁ『ギリギリ』それ位の高さなら、たまには履いても良いでしょう。」 駿介の身長は175センチ、一方水緒は168センチある。 6センチのヒールは逆転せずに済む『ギリギリ』な高さだった。 「実は、身長のことも考えたでしょ?」 クスクス笑いと一緒に放たれた彼女の突っ込みに、駿介は横を向き、口笛を吹いて知らぬフリを決め込んでいる。 水緒は、暫くの間嬉しそうにプレゼントを眺めていたが、急に何事か思い付いた様子で、駿介方に顔を向けた。 「あの~これ、今日履いて行ってもいいかな?」 今度は駿介が目を丸くし、それから悪戯っぽい表情に変わった。 「新しい靴は朝に下ろさないと縁起が悪いんだぞ。」 などと、年寄りのようなことを言い出す。 「あん、それ知ってる。福岡のおばあちゃんがおんなじこと言ってたわ。 午後に下ろすときはねぇ、靴底とかを少し汚して新品じゃなくしてから下ろすと良いんだよ。」 水緒は人差し指を立て、小刻みに振りながら話す。 これは、冗談を言ったり、自慢の豆知識を披露するときの彼女の癖だ。 お婆ちゃん子を自認しているだけあって、彼女の方も、時々妙に年寄り臭い知識を持っていたりする。 「へぇ、そうなんだ。」 「へっへ~、意外に物知りでしょ?」 真面目に感心する駿介に、水緒は大げさに胸を張って見せた。 「でも、靴擦れしないかな?」 「えっ?」 胸を張った姿勢のまんま、水緒の目が点になった。 「今日は、街は当然大渋滞だろうし、アルコールも入るだろうから、電車と歩きで行くつもりなんだけど・・・。」 「えと・・・遠いの?レストラン。」 「歩くのは片道20分ってとこかな。」 《往復40分か~・・・。》 靴擦れの事までは考えてはいなかった。 正直を言うと、身長の事もあって、ヒールのある靴自体履き慣れているとは言い難い。 初めて履く靴で、40分は少し危険な距離に思えなくもなかった。
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