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ようやく箱が開くと、姿を現したのは、特に珍しさはない白い陶製のペアのマグカップだった。
ただし一方には白衣を着た男性が、もう一方にはハサミを持った髪の長い女性が描かれている。
ご丁寧にも女性の目は緑色だ。
《これって僕と水緒?
よく見つけたなぁ・・・。》
感心している駿介の様子を、水緒は彼の傍まで立ってきて、覗き込むように窺っていた。
「私が描いたんだよ。その絵。」
「えっ!?そうなの?」
彼は両手にカップを持ち、しげしげと交互に見比べた。
「へぇ~、こんな才能もあるとは知らなかった。」
駿介も、外科医師として手先の器用さには少なからず自信を持っている方だが、彼女もまた、特に物作りなどの分野には驚くほどの器用さを発揮する。
何よりも、彼女の作った物を見ると、デザインをしたり作ったり、そういうことが楽しくて仕方ないのだと伝わってくる気がした。
「水緒はいい美容師になるよ。きっと。」
「ホント?ありがとう。そんな風に言って貰えると嬉しぃ。」
水緒はとうとう駿介の横にピッタリとくっついてしまっている。
「Vitisの美香先輩のお友達にね、食器のデザインとかオーダーでの製作をしている人がいて、その方にちょっと無理お願いして作ってもらったのだ。
まぁ、既製品にプリントしてもらっただけなんですけどね。」
説明しながら横を向くと、15センチ先に駿介の顔があった。
視線が外せなくなり、音が聞こえそうで、唾が飲み込めなくなる。
「ねぇ水緒・・・。」
「は・・・ハイ。」
返事をした声は奇妙に上ずっていた。
鼓動は既に2割増しである。
「遠くないうちに、水緒のことを両親に紹介したいんだけど。」
「へ?」
水緒は、一瞬何を言われたのか理解できず、素っ頓狂な声を上げた。
動悸は一気に治まったが、代わりに目が2割大きくなった。
「良かったら年明けにでもついて来てくれないかな?」
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