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「はい、アオちゃん。
ここ歪んでるっ!やりなお~し!」
「ひぇ~ん!!」
時が過ぎ、11月も下旬の夜。
美容室Vitisでは、迫り来るクリスマスシーズンに備え、店内の模様替えの真っ最中である。
チーフの七森 美香(ななもり みか)がスタッフ達に指示を飛ばす。
ショートボブが可愛らしい小柄で痩せっぽちな女性だが、本格的に声楽でも学んだのかと思う程、よく通る元気な声だ。
「ちーふー。夜だからぁ、もう少し静かにね~。」
短く揃えた茶色いあご髭を擦りながら、店長の秋田 佳巳(あきた よしみ)がぼやくように言う。
目つきこそナイフみたいに鋭いが、彼はいつも穏やかで優しい。
「ウィッス!!
わっかりました店長っ!!
ちょい!美和っ!それじゃトナカイじゃなくて角の生えたカピバラじゃろが!!」
「ご勘弁を~。トナカイなんて描けましぇ~んι」
「おーけー、おーけー。顔おっきくて可愛いじゃない~。」
傍目にはふざけているような会話が飛び交っているが、その実、仕事終わりの疲れた体じゃ、それくらいテンションを上げないとヤッてられないというのがホントのところだろう。
緑の多い店内で、そこかしこに置かれた大小の観葉植物の鉢植えが、ちょっと風変わりなクリスマスツリーと化している。
店内を満足げに見渡している七森に、秋田が声を掛けた。
「思ったよりはかどったねー。
がんばった。がんばった。
休憩でも挟もーかぁ。」
「やった~。店長やさし~ぃ♪」
スタッフの女の子達から大げさに歓声が上がる。
「ウィ~ッス!!
水緒ちゃん。お茶入れるの手伝って。」
「はぁい。」
みんなに混じり忙しく手を動かしていた水緒が、立ち上がってスカートの紙屑を払った。
水緒はお茶当番をする事が多い。
勿論、まだアシスタントなのだから当然といえば当然だが、七森に言わせると、水緒の淹れたお茶は美味しいのだそうだ。
そう言われて悪い気はしない。
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