Hochsommer

3/40
前へ
/47ページ
次へ
暴れる余力もないアレクセイの文句を聞きながら、その男性は年老いたご婦人に軽く会釈をしていた。 この様子から察するに、このご婦人はその品の良さが物語っているように、それ相応の権力を持っている人物なのだろう。 「奥様、こいつは言って利くようなやつではありません。このまま私が屋敷までお連れすることにいたしましょう」 確かに言って利くような性格ではないだろう、それには織希も納得していた。 ご婦人からの提案なのだから、何も嫌がる必要はないだろうに…と織希はその様子を見ていた。 静かに様子を見ていた織希に気が付いたのか、アレクセイは何か言いたげな顔をして、そしてじっと織希を見る。 「アレク、お世話になったらいいではないですか?良くしていただいているのでしょう?」 細かい事情を知らない織希はそう問いかけ、アレクセイの反応を見ることにした。 どうやらお世話になりたくないらしい、そもそも彼は人付き合いがあまり得意な方ではないのだ。 例えそれが昔からの知り合いでも、彼にとっては得意じゃない部類に入るのだろう。 「あらあら、アレクちゃんの大切な方なの?可愛らしいお嬢さんだこと、ばぁばに紹介してもらえるかしら」 「…どの大切かにもよるが、大切なのは…確かだ。……織希・クロノスという…俺とは同業者だ」 ぐったりとしながらもアレクセイはそう答え、そして織希から目を逸らした。 助けてくれることを期待していたのだろうか? そんなことを思いながら、織希はご婦人に挨拶しようと口を開きかける。 「まぁ!どうしてそういう大切なことをばぁばに話してくれなかったの?!ささ…織希さん、あなたもわたくしの屋敷においでなさい。早速、じぃじに紹介しないといけないわ」 「え…!?」 アレクセイの物言いに問題があったのはわかる、それにしても展開があまりにも早過ぎて、織希は驚く以外のことが出来なくなってしまっていた。
/47ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加