Der Anfang

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黒髪の女性の大きな青い瞳が、信じられないものを見るような目をして、ずぶ濡れのアレクセイの姿を見ている。 アレクセイから問いかけられても直ぐには返事が出来ず、手にしている小さな紙をポケットに仕舞って、慌ただしくバッグの中を探っていた。 そして女性が取りだしたのは一枚のタオル、それをアレクセイに向かって差し出す。 「何月だと思っているんですか?そんな薄着で水まで被って、何があったか知りませんけど風邪をひきますよ?」 「他の地区から来たようだな」 女性の差し出すタオルに見向きもせず、アレクセイはそう口にしていた。 ぽたぽた…と水が石畳を濡らし、それを見ているだけでも女性は肌寒くなってしまう。 「会話をする気はありますか?」 「…?最初に質問したのは俺だったはずだが、それは無視していいのか」 しん…と沈黙がその場を支配する、女性は思った…「変な上に掴みどころのない男だ」と。 だがそんなことよりも、このずぶ濡れの男性をなんとかしなければ、放っておくのはあまりにも後味が悪い。 このまま放っておけば、確実に風邪を引く。 季節はもう冬に差し掛かっている、暦で言えば11月になるのだ。 「とにかく…使って下さい」 「また水を被ることになる、必要ない」 どうしてそうなるのか!…と、女性は信じられないという目で、アレクセイを見上げていた。 顔色を見ても実に血色が良い、どこか悪いというようにも見受けられない。 透き通るような白い肌を羨ましく思ってしまったが、それとこれとは別だろう…と女性は頭を軽く振った。 「面倒なやつだな」 「そっくりそのまま、あなたにお返ししますよ」 このままでは埒が明かないと思ったのか、アレクセイは女性からタオルを受け取った。 三つ編みにしている髪を解き、ガシガシと乱暴に拭き始める。 「ちょ…っ!もう少し丁寧にしたらどうなんですか!?綺麗な髪をしているのに!」 女性が抗議の声を上げるとアレクセイは手を止めて、もう一度最初の質問を口にしていた。 「俺ではないにしろ、…何か用があったんじゃないのか?さっきの紙は地図か何かか?」 全く会話が成立しない…そう思いながらも、女性はアレクセイの質問に頷く。 そう、ある職人を訪ねてここまできたのだ。
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