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「イヴァン・フォン・クロイツァー氏に用があるんです。この近くだとは思うんですけど…」
まともに答えてくれるとは鼻から思っていない、そもそも最初から会話が成立していない相手なのだ。
質問の答えなどまったく期待していなかったのだが、今度はきちんとその答えを女性にくれた。
「すぐそこに工房がある。…が、イヴァン・フォン・クロイツァーは三年前に亡くなっている」
男性は工房のあるらしい方向を指差し、そして自分の知っている情報を付け足した。
その情報を聞いた女性の顔色が変わる、三年前に亡くなっているとは知らなかったからだった。
「そんな……あれがないと駄目なのに…今から他の職人に頼んでいたら間に合わなくなってしまいます」
何かを依頼していたらしい女性は、それが余程欲しいものだったのか、思わず口に出してしまっていた。
その様子を不思議そうに見て、男性は首を傾げてこう問いかける。
「俺はアレクセイ・フォン・クロイツァー、イヴァンの孫だ。君は織希・クロノスか?」
「そ…そうですけど、どうして私の名前を…?…っていうか、どうして先に名乗らないんですか!」
女性…織希に抗議されても、アレクセイは涼しい顔をしている。
感情表現が希薄なのか、それともマイペース過ぎるほどマイペースなのか。
アレクセイは何度か瞬きをして、それからタオルを首に引っかける。
「俺だけが悪いわけでもあるまい?それに俺が誰であるのか、ただの迷子にいう必要があるのか?」
「あなた…絶対に友達少ないでしょう?」
かなり失礼なことを口にして、織希はアレクセイをじとっと睨んでいた。
この男は癖があり過ぎる、イヴァン氏は穏やかな人だと祖父や父から聞いていたのに、その孫がこれとはいったいどういう育ち方をしたのか。
それを考えると溜息しか、出てこなかった。
「どうでもいいことだな。そんなことより、渡したいものがある。ついてこい」
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