2人が本棚に入れています
本棚に追加
ひゅ…と軽い音がしたかと思えば、珍客の耳元スレスレに何かが通過した。
そして、こっ!と音を立てて、ドアにその何かが突き刺さる。
織希はそれが何であるのか、目を懲らしてみた。
職人の相棒と呼んでも過言ではない工具…、その名前はドライバーだ。
「アレク、俺を殺る気?」
「殺意はない。ただ、「死んでしまえばいいのに…」と思っただけだ」
淡々とそういうとアレクセイは背を向けて、工房の奥へと入っていった。
珍客は軽く口笛を吹き、馴れ馴れしくも、織希の肩に手を回してくる。
その手をぱちんっ!と叩いて、織希は来客用の椅子に腰を下ろした。
「お嬢さんはアレクとどういう関係?俺はあいつの幼なじみなんだけど、お嬢さんは初めましてだね」
冷たくされてもへこたれないのか、珍客はへらりと笑って織希の前に座る。
「あの人のお祖父様に用があったんです。渡すものがあると言われたので、ここに来ただけです。あの人と私は初対面ですよ」
ペラペラとよく喋る男ではあるが、アレクセイと話すよりも織希の気持ちは楽だった。
根掘り葉掘りと聞いては来るものの、どこか憎めなくて笑ってしまう。
「アレクのこと、どう思う?」
突然にそう問われ、織希は一瞬止まってしまう。
それからちらっと工房の奥を見て、はっきりきっぱりと答えた。
「変な上に掴み所のない人です。なんなんです?もうすぐ真冬になろうかってこの時期に水浸しになってたんですよ?あの人」
織希の言葉に「あぁ、あれのことね?」と、この珍客は笑いながら答えた。
「アレク、そういう体質なんだよね。もう夏場なんか可哀相よ?ここらでは有名だから、誰も何も言わないけどね」
それを言ってくれればいいのに…と織希が溜息をついていると、奥からようやくティーセットを手にしたアレクセイが姿を現した。
「きししっ!黙っていればいい男なのにねぇ?アレク」
「お前がな」
淡々と答え、意外にも繊細な手つきで紅茶を入れ、織希と珍客の前に置く。
「アレク、俺のこと…色男と思ってたんだね~?嬉しくて泣きそう…っ!愛してるよ、アレク!」
ひしっと珍客はアレクセイに抱き着き、スリスリと頬擦りしている。
まだその体は濡れているというのにお構い無しに、珍客はアレクセイを抱きしめていた。
「うざい、熱い、キモい」
「もぅ!アレクの照れ屋さん!」
最初のコメントを投稿しよう!