Hochsommer

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降り注ぐ陽射しに思わず溜息を洩らしつつ、織希・クロノスは目的地へとその歩みを早めていた。 相手と約束を取り付けているわけではない。 そういう意味では急ぐ必要はどこにもないのだが、彼女は一分一秒が惜しいと言わんばかりに歩いていた。 「あ!」 もう少しで目的地へ到着するという時、織希はその足を止めてしまう。 アレクセイ・フォン・クロイツァー、その人が広場の噴水に浸かっていたのだ。 真冬でも薄着で丁度いいという彼にとって、真夏というこの季節は地獄に近いのかもしれない。 そんな彼の側には心配して駆け付けたのか、幼馴染の青年の他に若い男女が様子を伺っていた。 「あ、いつかのお嬢さん!」 織希と面識があったアレクセイの幼馴染が立ち止まっている彼女に気付き、大きく手を振りながらその場を離れて織希へと近づいてきた。 そして挨拶もそこそこに、織希とアレクセイの幼馴染は噴水へと向かう。 「…生きてますか?」 「……死んでしまいそうだ」 織希の生存確認にアレクセイは小さな声で答え、それからぐったりとなってしまっていた。 夏場のアレクセイは可哀想な状態になっているとは聞いていたものの、ここまで酷い状態になっているとは織希も驚くしかなかった。 街の住人達はこの状態に慣れているのか、見て見ぬふりということもせずにアレクセイへ何かしら施しをしていく。 その中に品の良い年老いたご婦人がいて、ぐったりとしているアレクセイに優しく声をかけていた。 「アレクちゃん、今年もばぁばのお家へおいでなさい。アレクちゃんが来てくれたら、じぃじも喜ぶから心配ありませんよ?」 「今年も」ということは去年もその前も、ご厄介になっていたのだろうか。 周りもいつものことだと思っているのか、そうした方がいい…という空気になっている。 しかし、アレクセイは首を横に振っていた。 「…いつまでも頼るわけにはいかない」 アレクセイなりの遠慮なのだろう、その言葉に誰も文句をつけたりはしない。 その様子を見ていた一人の男がおもむろに噴水へ入り、ぐったりとしているアレクセイを軽々と肩に担ぎあげた。 職人とはいえ、アレクセイの体つきは決して華奢ではない。 そんなアレクセイの体を悠々と持ち上げた男もまた、服の上からでわかるほどに頑強な肉体の持ち主だった。 「…!?…なっ!なにをする…!?…下ろせ!!」
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