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「うっ」
真ん中で分けられている前髪から姿を見せている額に何か小さい物が打ち付けられた感触がした。目を瞑っていても分かるような感覚。
(でこぴん……?)
少女が恐る恐る目を開けると少年が今まさに何かを言おうとしている所だった。
「ビクビクしすぎ」
という言葉にビクっと身の毛をよだたせた。ビクビクを止めようと体に力を入れるもそれが悪循環になっている。
「……ごめん……なさい……あうっ」
頭にまたでこぴん。左手の中指。少年の口から溜め息が出る。しかし相変わらず表情に変化は見られず、怒りも笑いもしない右目が黒髪に隠れた顔。
「もうそこ四階だから」
と言った後独りで階段を登り四階のフロアへと到達した少年。少女も追い掛けるようにして走って慌てて上っていた。
「ああ……あの……わ……私……」
何か言わなければ、何か謝らなければ、何か、何か、何か――
「無理に言葉探さなくていいよ」
少年の振り返らずの一言が彼女の足を止めた。そうして職員室がある右側とは反対方向の左側の廊下へ歩いていってしまった――。
「……ほんとに……ごめんなさい……」
罪悪感と不甲斐なさに涙が出てくる。今のささやき声は恐らく彼には届かなかっただろう。
人間が怖いとはいえ、やはり何か、何か言うべきだったのではないかと後悔していた。職員室がすぐそこにあったというのに向かいの女子トイレで涙跡が消えるように鏡を見ていた。
さっきの少年の顔を思い浮かべながら、申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら――。
時間はまだある。
「……あんなに似ているのにな」
黒髪の少年の口からぼそりとでた言葉。
――これが少年と少女が初めて会った瞬間だった。
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