黒の体温

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職員室は涼しかった。 「あのっ……」 まさにすれ違おうとした絶妙なタイミングで一人の先生に話しかけた少女。さっきの少年とはうって変わって話しやすい表情の変化をしていた。 「あらどうしたの?」 「……あ……あの乃木山校長先生は……あの……おられ」 「あ~!あなたね噂の転校生」 女性教師が少女の顔とセリフから何かを思いついたように口を大きく開ける。それにしてもそこまで噂になっているのだろうか? 「今呼んでくるからさ、あの部屋に入って待ってな」 そういうと女性は右に九十度針路修正をし、早歩きでどこかへ行ってしまった。口振りからして校長を呼びに言ったのだろう。 「……」 女性が指示した場所は校長室だった。白い風景が目立つ広々とした職員室の中に茶色い木の感触をそのまま残した壁、天井、床の一室。 奥には校長が座るであろう“校長席”と書かれたプレートが威圧感を放つ机に椅子。そして中心に位置する黒いソファー。それらが二つペアで向かい合わせとなり、ガラス板のテーブルを挟んでいる。 「あぁどうも」 そんな観察をしている間に後ろのドアから六十代くらいと四十代くらいのスーツ姿の男性達が入ってきた。少女の肩に一気に力が入る。 「えぇ……ようこそ、我が中木高校へ。校長の乃木山です!」 年老いている頭の禿げた方、校長の乃木山が軽く一礼。その後、もう一人の中年の先生が後ろから校長の隣に並ぶ。 「初めまして、九月から君の担任になる益岡です」 「はい……九月から……お世話に……なります……」 一呼吸おいて、震える少女の唇が再び動き出した。 「三幸……遥です……」 三幸 遥。 それが少女の名前である。
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