黒の体温

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「次の補習の先生が来るまでまだ少し時間があるから同じクラス同士、親睦でも深めてなさい……では私もこれで」 笑みを含んだ乃木山校長も益岡が去っていった方向とは反対方向に歩いていった。そもそもここに何をしに来た?と思う間もなく―― 「さあ、ハルちゃん、入って入って」 愛に後ろから背中を押されているのを感じ、慣れない自体に慌てふためく遥。帰るつもりだったのに何故かこんな事になってしまった。 ……ハルちゃんとは? 「あ、そうだ、これからハルちゃんって呼んでいい?」 もう呼んだ後なのであるが。順番が全く持って、逆。 「あ……ど……どうぞ……」 更に縮こまっていき、俯く遥。こうやって人の輪らしき物に入っていくのは好きではなく、怖いのだ。見かねた刹那が横から声を掛けた。 「おい、そんなビクビクしなくても大丈夫だよ、おい」 「……ごめん……なさい……」 すると愛が刹那を睨みながら囁く。刹那からは不安に刈られている遥の横顔の背景に、殺気めいた視線が自分射抜いていた。 「変態だから怖いよねコイツ、ごめんね、怖かったらいつでもひっぱたいていいからさ、弱いからコイツすぐ黙るから」 「をい貴様」 「何変態何か文句あるまた無様な死体晒す?」 「はいすいませんでした申し訳ありませんでした何でもするから命だけはご勘弁を愛様」 後半が棒読みだったが、まとめると愛が刹那を完全に尻に強いている事は確か。 だがその間に立っていた遥の様子は相変わらずの怯えきった様子。緊張で肩に力が入り、息づかいも荒く、泣き出しそうな勢い。 ――こういう時、どうすればいいんだろう? あまりに珍しい類の小さな少女をどう扱えばいいのかと刹那と愛が見合う。とりあえず教室内に入れようと一拍おいて愛が遥の背中を押した。誘導には従ってくれるらしい。 「ま、すぐに慣れるってハルちゃん」 こうしてそわそわしている遥を教室の中に入れた二人。何か疲れる。 ――だが次に二人が見た遥の表情。明らかに驚いた様子でピンクの眼鏡に包まれた瞳を見開かせ、硬直していた。 目線の先には―― 「さっきの人……」 もう一人、教室の片隅の机に顔を起きながら睡眠をとっている少年を見つめていた。
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