黒の体温

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机に突っ伏して睡眠をとっているのか、髪に隠れている閉じた右目しか顔は見えなかったが、遥は確信していた。さっき色んな意味で助けてくれた人だと。その時に左手に握られていた缶コーヒーは開けられた状態で机の片隅に置いてあった。 少年の横に刹那が駆け寄り少年の肩を揺らす。 「おい(しん)!起きろ、ニュースだ!ビックリニュースだ!」 「……ん」 だるそうに体を起こす、真という名前の少年。“真”という言葉が耳に入った瞬間、遥の中で何度も“真”という言葉を点滅させ、今体を起こしきった少年に重ね合わせていた。無意識に。 「……なに……まだ眠いんだけど」 今にも寝てしまいそうだ。ちなみに彼が飲んでいた缶コーヒーはカフェインがかなり入っている事で有名で、目が覚めると評判。それが何故か彼には全く通用していないらしい。 「転校生だよ!転校生の女の子が来たんだよ!起きろぉ!ひゃっほう高校男子の皆様にはあるかないか分からない女の子転校イベントた」 何とか真を起こすべく、刹那が力の入ってない彼の肩をとにかく揺らす。 「あ、あそこで揺らされてる奴が片瀬真(かたせしん)て言うんだよ」 「あ……はい……」 すっかり紹介役になった愛が真を手で差しながら言った。 ――この時、さっきまでの怯えきった表情が消え去っていたのが愛には見えた。 緊張は未だに続いているようだが、さっきまでとはどこか種類が違っていた、ような気がした。 するとさっきまで立ち止まって固まっていた小さな遥の体が真の席まで移動していた。そわそわした足取り、胸に手を当てた心臓を押さえるような仕草は相変わらずだったが。 「あ……あの……さっきは……ほ……ほんとに……」 「謝んなくていいって言った筈」 二人の会話を聞いて刹那と愛の頭上に疑問符が登る。 「真、この子と知り合いなの?」 「ただ道案内しただけだ」 そう、道案内しただけ。だが遥にはまだ階段で助けてもらった時に繋いだ手の温もりと感触が残っていた。だから、道案内しただけでは無いのだ。遥にとっては。
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