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音がしている場所はそれも、少女が座っていた場所からすぐ右だった。
「……」
校舎内にある珍しい赤い自動販売機に向かい、一人の少年が眺めていた。
ここでも異常な人見知りが発動して少女の足を反対方向へ引っ張るが、しかし流石にこのまま現状維持も嫌だ。
何とか嫌がる足を無理矢理持ってきて、恐る恐る、ビクビクしながら少年の真後ろまで遂に到達する。少年といえば出て来た缶コーヒーを取り出した。
「あ、あの……!」
少年が動き出してびくりと少女の体が波打ち、気がつけば言うか言うまいか躊躇していた口を作動させていた。
「ん?」
「すいません、職員室……どこですか……?」
「……?」
時が止まったような少年の顔。少し長めの黒髪が右目をかなり覆い隠しているのが特徴。向き合ってみると分かるが随分と整った顔立ちである。
何か間違って聞こえてしまったのだろうか。ビクビクした口調で伝わりづらかったのだろうか。
しかし何かまずいことを言ったような空気でないことは少女の過敏な神経がすぐに読みとっていた。
「ああ、転校生か」
俯きかけていた少女の顔が電波を感知したかのようにすぐに上を向いた。
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