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その日、旭国全土に異変が巻き起こった。
熱帯の海に巻き起こったダイアモンド・ダスト。
砂漠の丘に水を湛えた大地割れ。
惑星直列が日食とともに起きる。
昼夜構わず降る流星群。
不思議な事には、諸外国にはこんな事が起こっていなかった。
島国旭の領域だけだった。
国内の人々は、この日を『奇蹟の日』と呼んだ。
神の御業とも、悪魔の仕業とも言われたが、総じてこの千載一遇の現象に驚き慄きしたのである。
そんな大きな奇跡に比べれば、大した事もないかもしれない。
同日、まさに日付が変わろうとした頃、白樺市にある病院で、双子が生まれた。
「とうとう生まれたか…」
双子と寄り添って喜びの涙を流す妻を見て、若き院長の赤谷洋介は言った。
姿形はまさしく鏡に映したよう。
姿がそっくりそのまま左右に反転した男の子であった。
六本指の片腕もろともに。
「本当ね… この子達を産むまでの苦労が、顔を見たとたん、みんな吹き飛んじゃった」
「まったく、天使みたいだな。それとも、牙を隠した悪魔か?」
「悪魔だっていいわ。こんなに可愛いんだもの」
「佳代子の言う通りだ」
日付が変わり、隣の病室に再び新たな命が生まれた。
「おいおい、犬の子じゃないんだ。こんなに生まれなくても…」
そう言って、新生児達を見つめる父親、徳山京平。
「仕方ないだろ。兄さんは警察の狗なんだからな」
「待て、洋介。何だその言葉は。聞き捨てならないぞ」
「いや、冗談」
洋介は院長として、そして京平の弟として彼の子供達の出産に立ち合った。
「だがまあ、四つ子は珍しいな」
そう、目の前には四人の新生児。
我が子も双子だったが、それ以上の驚きだ。
「きっと『奇蹟の日』の置土産だ」
京平は、ふとそう呟いた。
大暦2000年の大晦日から翌元日にかけての出来事…
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