~異邦人~

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彼女は傍らのブリーフケースから書類の束を取り出すと、よく透る声で説明を始めた。 「5年前の6月6日…ベルカ軍が自国内で核を使用した日です。 あの日、我が軍の輸送ヘリコプターCH-47が重要物資を輸送中、バルトライヒ山中で消息を絶ちました…恐らく核爆発の衝撃、またはEMPによる機器の破壊により墜落したものと思われます」 「で…その重要物資って何なんですか?」ヴィクターが質問した。 「…『トールハンマー』…貴方がたの『V1』に相当する戦術核弾頭だ…」 ミレット中佐が説明する。 「当時の情報部は早いうちから貴国が核兵器使用の兆候を示したことに気づいていた、オーシア軍司令部は対抗上核兵器を前線に配備する必要に迫られた… しかし、ブライトヒル(オーシア大統領官邸)が核兵器の前線配備に躊躇、閣議の結果、ようやく配備が認可され、前線に輸送途中にベルカが核を使用… 結果としてオーシアの核抑止は間に合わなかった…」 ここでミレットは言葉を切った。 「問題はここからだ、ベルカが使用した7発のV1戦術核の磁気パルスは連合軍最前線のコンピュータシステムをことごとく破壊、前線の情報、通信の混乱によって『トールハンマー』に関する記録も失われてしまった…そして何より、ベルカの核使用を糾弾した我が国が、その裏で自らも核兵器を配備していた…となるとオーシア政府は国際社会から信頼を失うだけでなく、ベルカは更なる強攻策をとりかねない…」 …「で、うやむやにしてたら最近になってその核弾頭が見つかったわけだ」 ハンスのぞんざいな口調にカタヤマが答えた。 「はい、それを発見したのが我が国かベルカの然るべき部署なら問題はなかったのですが…」 「どこの部署が発見した?」 マイスター、ミレット、カタヤマがハンスを見た。 「旧第3航空師団…フォークナー少佐の前所属部隊…そして先程説明した撃墜されたはずのイーグルの所属も第3航空師団…」 ヴィクターは隊長のこれほど歪んだ表情を見たことはなかった…
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