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響子
「仕方ない…」
響子は呟くと、おもむろに浴室へ向かった。
先程、湯船に満ちていたお湯は、空になっている。
勿論、響子が栓を抜いたからだ。
響子は再びバスタブの栓を閉めると、お湯を入れ出した。
智子
「何を…?」
智子は、不思議そうに響子を見つめている。
響子
「貴女には少し辛い事だと思うけど…今は、この方法しか無いから、協力してね」
智子
「協力はします…でも、何をするんですか?」
バスタブにお湯を入れていた響子が、立ち上がり智子を見つめた。
響子
「あの日のあの場所へ、飛ぶの…」
智子
「え…」
響子
「正直、この方法は私も心身の疲労が激しいし…何より、渋谷さん…貴女に辛い思いをさせてしまう…」
響子は、言葉に詰まった。
だが、智子の返事は意外な程、落ち着いていた。
智子
「私の事は、気にしないで下さい…それより、橘さんは大丈夫なんですか?」
響子
「一応、夕飯は食べたし…大丈夫」
嘘では無い。
智子
「では、説明して下さい」
響子は頭をフル回転させ、これから行う事や状況を、纏めた。
響子
「先ず、今の渋谷さんがどの様な状況か?を説明するならば…」
智子
「…」
響子
「人は、亡くなると天国か地獄へ逝きます…ですが、成仏出来ずに、この世に漂ってしまう霊魂は多いんです」
智子は、黙って響子の話を聞いていた。
響子
「それ等の霊魂は、更に細かく分類されます…」
智子
「細かく?」
響子
「ええ、1番多いのは…事故等で突然亡くなり、己の死を認識出来ていない霊魂…」
「後は、この世に何等かの心残りが有り、成仏出来ない霊魂…」
「そして、1番厄介なのは…邪念が強く、怨み辛みの塊になってしまった霊魂…」
智子
「私は?」
響子
「渋谷さんは、心残りが有る…のだと、思いますが…」
智子
「そうですね…」
智子は、軽く頷いた。
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