消えない花火

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「駅まで 傘を持ってきて」 いつもの喫茶店で待つ父のために、私が行く!と 少女は母に飛びついた 母はちょっと迷って、幼い手に長い傘を渡してくれた 暗い道に 少しの不安と後悔が横切ったけれど 使命感が少女をぐんぐん前に押した カポカポ鳴くゴム長靴 車が水溜まりをはねながら通りすぎる 等間隔で並ぶ街灯を見上げると 針のように細い雨がキラキラ光る ピンクのつま先の向こうで 濡れたアスファルトの凸凹に反射した明かりが 夏の夜空に打ち上がる大きな花火のように見えた 花火は 少女の一歩先を移動しながらずっと照らす 追いかけるように なだらかな坂道を下りた 褒めてくれた大きな掌も 小さな古い喫茶店もなくなってしまったけれど 雨が降ると 今も時々 パンプスに変わったつま先の向こうに 消えない花火を見ながら歩くimage=360074106.jpg
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