16人が本棚に入れています
本棚に追加
「駅まで 傘を持ってきて」
いつもの喫茶店で待つ父のために、私が行く!と 少女は母に飛びついた
母はちょっと迷って、幼い手に長い傘を渡してくれた
暗い道に 少しの不安と後悔が横切ったけれど
使命感が少女をぐんぐん前に押した
カポカポ鳴くゴム長靴
車が水溜まりをはねながら通りすぎる
等間隔で並ぶ街灯を見上げると
針のように細い雨がキラキラ光る
ピンクのつま先の向こうで
濡れたアスファルトの凸凹に反射した明かりが
夏の夜空に打ち上がる大きな花火のように見えた
花火は 少女の一歩先を移動しながらずっと照らす
追いかけるように なだらかな坂道を下りた
褒めてくれた大きな掌も
小さな古い喫茶店もなくなってしまったけれど
雨が降ると 今も時々
パンプスに変わったつま先の向こうに
消えない花火を見ながら歩く
最初のコメントを投稿しよう!