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ゆっくりと写真をめくっていって、分厚かった写真の層もようやくひとつのサイクルの終わりが見えてきて。これが最後かなと一枚上の写真を一番下に送ると、僕は小さく息を吐いた。
最後の写真は、二人で撮った唯一の写真だったから。
他の写真より小さいあの人と僕の姿は、あまりにも対称的で笑えてしまう。
あの人が僕の手を引いてソファに座らせて、逃げられないように肩を抱いて。
僕は肩に置かれた大きな手の下で、らしくもなく緊張してた。
あの人と「写真を撮る」なんて初めてだったもの。
強張る身体にあなたは優しく「笑って」と言い聞かせて。そのくすぐったさに力は抜けたけれど、結局写ったのはいつも通りの顔。
その隣りでは、あなたが僕の分まで笑っているようで。
最後くらい、笑えれば良かったのに。
この写真を見たときに、あの人も笑ったんだろうなと、思ったら、喉に迫り上げてくるものがあった。
心許無くて、自分の手を肩に持っていく。
あの人が抱いてくれた肩。
手の平は暖かくて、僕を安心させてくれた。
けれど、その温もりを二度と感じることはできないんだ。
肩に滲むのは、自分の手の平の体温。
あの人はもっと温かかったよ。
今でもあの人が僕の隣りにいる気がしてならないのに、広がっていく熱だけが空しい。
『…みんな同じ気持ちですから』
受け入れることも、ましてや割り切ることなんてできない。
想いは僕を惑わせる。
「…っ」
皺になるのも構わず、キツくシャツを握り締めた。
あなたはどういうつもりでこの写真を撮ったの?
ただ単に撮りたくなっただけなのか、それともああなることを予期していたのか―
こんなの、いらなかったのに。
形に残る思い出なんていらない。
あなたは僕を悲しませるためにこんなものを残したの?
平面の世界に映る残像は、立体の世界に抜け出て実体を形作ることなどないのに。
声も、熱も、あの笑顔も、僕が欲しいものは何ひとつ無い。
仮初の気休めで終わらせたくはないんだ。
目に見える思い出は現実にあなたを見出だそうとする僕を苦しめるだけだから、だから…
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