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数え切れないほどの
形にはできない思い出を
Milione Film
パシャッ
機械がシャッターを切る音。一瞬だけどフラッシュが焚かれて、僕は目を瞑る。半分はわざとだけれど。
「あっ、目ぇ閉じんなよ!」
カメラを手にして、ディーノが唇を尖らせている。
「知らない。僕には関係ないよ」
ディーノは今日、カメラを持って僕のところにやってきた。応接室に入って来ていきなり撮ったのが一枚目。それから僕の隙をを窺っては引っ切り無しに写真を撮っている。
もう既にフィルムは2本使った。しかし、フィルムはまだ何本もストックがあるらしく、ディーノは鼻歌を歌いながら(酷く音痴だ。やはり部下がいないせいか?)フィルムを入れ替えていた。
「まだ撮るつもり?」
よく飽きないね、と皮肉を言えば、ディーノはただ笑って、
「飽きないぜ?こういうのはいくら撮ってもいいもんだ」
なんて言ってまたパシャリ。今度は手を顔前に翳して阻止してやった。
ディーノは文句を言うけど、別に僕は許可したわけじゃない。…あぁ、あなたがお金を払ってくれれば話は別だけれどね。
書類に目を通しながら、うろうろとしているディーノを横目で見やる。ディーノが撮っているのは何も僕だけではないみたいだ。応接室の内装、賞状…窓から身を乗り出して、グラウンドを撮ったりもしている。と、いうことは応接室に来る前にもいくらか写真を撮ってきたのだろう。…本気でお金払ってもらおうか。
パシャッ
「!」
「考え事してる恭弥も~らい~」
突然シャッター音がして、頬杖をついた手が滑り落ちた。気付かないうちに目の前には黒いシャッターが。その奥でディーノが僕をレンズを通して覗きこんで笑っている。
「あなたねぇっ…!」
堪忍袋の緒が切れて、僕は机を叩くと立ち上がった(もともと緩いんだよ、僕の緒は)。
「恭弥の怒ってる顔も撮り!」
パシャッ
「殺す!」
トンファーを構え、ディーノに迫っていく。怒られて尚撮り続けるとはいい度胸だね。そのカメラごとグチャグチャにしてあげるよ!
「落ち着けって」
問答無用。
…だいたい何でいきなり写真なんか撮り出したんだろう?
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