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固まったままでいる柚希を気にしてもいないのか、耳のすぐ側で毛利が声をかけてくる。
「ここからは、よく花火が見えるでしょう。ここ穴場なんです。
営業の先輩から教えて頂いてたんですけど、忙しくて今まで一度も来た事がなかったんです。
今年は、是非竹下さんと見たかったものですから、少し強引かもしれませんが、連れて来てしまいました。
それに、男として問題ないという所もお見せしたかったですし」
そうですね。花火がここからはよく見えます。
営業の先輩は、良くこの場所をご存知で。ここで何してたかお聞きしたいくらいです。
強引と言えば、かなり強引な手段でしたよね。
男として問題ない事は、十分にわかりました。
この密着度合いとか、耳の裏辺りにかかる、熱い吐息とか、男として意識せざるを得ないこの状況とか!!!
『そうですね。よく見えます』
柚希は顔の熱さから、自分がかなり赤面している事を自覚している為、真っ直ぐ花火を見るフリをしながら、
前を向き、そう一言だけ返事をした。
柚希は、動揺を悟られまいとしていたが、真後ろに立つ毛利からは、アップにした髪の隙間から、真っ赤に
なった耳が見てとれて、毛利は楽しげに口角を上げた。
他人から見れば、何か企んでいるといか思えない笑みも、今ここには前を向く柚希しかおらず、肝心の柚希は
必死に前を向いていたが為に、その顔を見逃していた。
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