5=悪魔と七夕

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固まったままでいる柚希を気にしてもいないのか、耳のすぐ側で毛利が声をかけてくる。 「ここからは、よく花火が見えるでしょう。ここ穴場なんです。 営業の先輩から教えて頂いてたんですけど、忙しくて今まで一度も来た事がなかったんです。 今年は、是非竹下さんと見たかったものですから、少し強引かもしれませんが、連れて来てしまいました。 それに、男として問題ないという所もお見せしたかったですし」 そうですね。花火がここからはよく見えます。 営業の先輩は、良くこの場所をご存知で。ここで何してたかお聞きしたいくらいです。 強引と言えば、かなり強引な手段でしたよね。 男として問題ない事は、十分にわかりました。 この密着度合いとか、耳の裏辺りにかかる、熱い吐息とか、男として意識せざるを得ないこの状況とか!!! 『そうですね。よく見えます』 柚希は顔の熱さから、自分がかなり赤面している事を自覚している為、真っ直ぐ花火を見るフリをしながら、 前を向き、そう一言だけ返事をした。 柚希は、動揺を悟られまいとしていたが、真後ろに立つ毛利からは、アップにした髪の隙間から、真っ赤に なった耳が見てとれて、毛利は楽しげに口角を上げた。 他人から見れば、何か企んでいるといか思えない笑みも、今ここには前を向く柚希しかおらず、肝心の柚希は 必死に前を向いていたが為に、その顔を見逃していた。
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